腱引き療法とは?
腱引き
腱引きのはじまり
「腱引き」は、戦国時代から江戸時代にかけて発達した武術の中で、柔術の稽古中に受けたダメージを治すための「活法」として生まれました。
※相手にダメージを与える技を「殺法」、逆に蘇生させたり回復させる技を「活法」といいます。
接骨院で行われている柔道整復術(骨接ぎ)も柔道の活法として伝えられているもので、骨折・捻挫・脱臼を整復します。
腱引きという言葉自体は、柔術の各流派に伝わっていますが、当院で行うのは柳生心眼流という流派の系統だといわれています。
しかし、明治以降は柔術の衰退と共に腱引きも姿を消していきました。
腱引きとマッサージの違い
腱引きは、筋肉や腱を調整することで痛みをその場でとるだけでなく、身体の歪み改善するので血液やリンパの流れが良くなります。柔術から発展したと聞くと、痛い施術のように思われるかも知れませんが、私の師である小口により理論が整理され、施術方法もより安全で効果的なものになりました。時には瞬間的に痛みを伴う時もありますが、基本的には受けていて心地よく、終わる頃には寝てしまう方もいらっしゃいます。
腱引きでは、痛みは炎症や骨の変形でなく、筋肉や腱がずれたために神経を刺激したり、筋肉が引き伸ばされたりすることで起こると考えています。
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腰の腱が正常な状態 | 外れている状態 |
凝りは、筋肉がズレたり、捻じれたりすることで、筋肉内でよどみが生じ、老廃物がパンパンに溜まった状態ととらえています。
マッサージや指圧は、外から圧力を加えてこのよどみを他動的に流す手技ですが、腱引きでは、よどみの原因である筋肉の捻じれを元に戻すことで血液やリンパが流れる環境を作ることで体を改善していきます。
また腱引きは、身体の苦痛だけでなく、頭の循環をよくすることで精神的な面にも効果があるのが特徴です。
脳は頭蓋骨で守られていますが、外からでも脳の周りを取り巻いている脳脊髄液の還流をよくするポイントがあります。そこを押すことで脳内の循環を良くなるため、うつ状態の方でも、施術後は頭がスッキリしたと喜ばれます。
腱引き療法の実例
ここでは、ギックリ腰を例に腱引きの痛みに対するアプローチの仕方をご紹介いたします。
ある患者さんの奥様がギックリ腰で全く動けないということで往診に行きました。
その方は、数年前にも同じように痛くなり、救急車で病院に行き、神経ブロック等をしながら一週間入院しても痛みが変わらないので、そのまま退院してきたそうです。
家に伺うってみると、パジャマのまま横向きに丸くなって寝返りもうてない状態だったので、横向きのままで腰の腱の位置を確認し、同時にずれている腱を引きました。
うつぶせになれるようになったので、もう一度しっかり腰の腱を引いてある程度元の位置におさまったので、立ってもらおうとしましたが「動けません。」と言います。
「痛いですか?」と聞くと「痛くないけど、どう動いていいかわからない」とのことでした。
これは、筋肉がずれた時に、これ以上筋肉を傷めないように、脳が無意識にブレーキをかけているために起こります。
そこで、腰に負担のかからない立ち方をアドバイスしながら、恐々ながら立ってもらいました。立って動いてみても痛みが出ないとわかると、脳がブレーキを解除し始めます。
歩けるようになると、動いている間に腱がさらに元の位置にしっかりおさまっていくので、みるみる動きがスムーズになっていきます。
これは、ギックリ腰が炎症ではなく、腱のズレだという症例の一つです。腰痛に限らず、痛みの多くは筋肉や腱を元の位置に戻すとおさまります。
筋肉の位置を戻さないままでストレッチをすると、ずれて引っ張られている筋肉をさらに引き伸ばして傷めることが多々あります。また、指圧をして余計に筋肉をずらして悪化してしまう場合もあります。
今まで筋肉を押したり、揉んだり、叩いたりして痛みが取れなかった方は、筋肉を引くことで位置を元に戻し、血液やリンパの循環を回復させ、痛みや疲労が改善するのを実感してください。
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弦楽器をつま弾くように、筋肉の腱を引くことで、定位置に戻したり、捻じれを治すことが出来る。 また、腱に刺激を与えることで、脳がその部位を再認識するため、自己治癒力を引き出すことにもなる。 |